口座に入金された見知らぬ4630万円を使っても罪に問われない?

      2022/05/18

【山口】4630万円振り込みミス問題 阿武町が振り込み先の20代男性を提訴 男性は2週間ほどでほぼ全額を引き出し所在不明に
山口県阿武町が1世帯に誤って4630万円を振り込み、振込先の人物が返還を拒否している問題で、阿武町は12日、返還を求め振り込み先の男性を山口地裁萩支部に提訴した。
この問題は、1世帯10万円の新型コロナ対策の臨時給付金を誤って1世帯に4630万円振り込むミスをしていたもの。町は振込先の男性に返還を求めたが、この人物は「入金されたお金はもう動かしている、元には戻せない」などとして返還を拒否している。

返金されるかどうかは別として、確かこれは窃盗では?
という事で賢明なるヤフコメ民のコメントを見てもその点についてはスルーと思いきや

ん?やはりこれは検索せざるを得ない。。。
ATMの誤振込みから窃盗事件?

誤った振込があったのを知りながら敢えて口座から現金を引き出すと詐欺か窃盗になる

以下は窓口から引き出した場合(人が介在している場合)


最決平成15 年3 月12 日刑集57 巻3 号322 頁
これを受取人の立場から見れば、受取人においても、銀行との間で普通預金取引契約に基づき継続的な預金取引を行っている者として、自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には、銀行に上記の措置を講じさせるため、誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があると解される。社会生活上の条理からしても、誤った振込みについては、受取人において、これを振込依頼人等に返還しなければならず、誤った振込金額相当分を最終的に自己のものとすべき実質的な権利はないのであるから、上記の告知義務があることは当然というべきである。そうすると、誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の欺罔行為に当たり、また、誤った振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たるというべきであるから、錯誤に陥った銀行窓口係員から受取人が預金の払戻しを受けた場合には、詐欺罪が成立する。」

以下はATM引き出しの場合
犯罪行為により自己名義口座に振り込まれた 預金の払戻しと詐欺罪・窃盗罪の成否 ――東京高判平成 25 年9月4日、判例時報 2218 号 134 頁

被告人に本件預金の払戻しを受ける正当な権限はないこととなり、これがあるように装って預金の払戻しを請求することは欺もう行為に当たり、被告人がキャッシュカードを用いて現金自動預払機から現金を引出した行為は、預金の管理者ひいて現金自動預払機の管理者の意思に反するものとして、窃盗罪を構成するというべきである。」

他にも弁護士さんのサイトなどで確認すると今回の場合はほぼ窃盗にあたるということでよさそうです。が、
こんな意見もあります。
誤振込みされた給付金を返さないと?
まず、気を付けておきたいのはこれはあくまでこの方の個人的な私見だという点です。弁護士ですが大学の教授なので言わば学説と言っていいかもしれません。

ところが、民事判例ですが、平成8年4月26日に最高裁が、誤振込みされた金額については口座名義人に有効な預金債権(預金を引き出す権限)は成立しているが、民法上は法律的原因のない不当な利得(民法703条以下)であって返還義務があるとされました。
誤振込みについては、銀行間で「組戻し(くみもどし)」という手続きが取られ、ミスを事後的に是正することができますが、この制度も、預金債権者の同意が必要で、銀行は勝手に行なうことはできません(最高裁平成12年3月9日判決)。
つまり、預金の引き出し行為じたいは民法的には問題がないとされたわけですが、これは刑法の考え方と矛盾するのではないかと、問題が紛糾しました。

■まとめ
 理由のないお金が誤って振り込まれたので、その金額について返還する法的な義務があることは当然です。しかし、それと預金を引き出す権限があるかどうかは別の問題です。

 そもそも振込みとは、銀行間で安全かつ迅速に資金を移動する手段であって、おびただしい数の、また多額の資金移動を円滑に処理するために、仲介銀行が資金移動の原因となる法律関係の存否や内容等の正しさを吟味することなく資金移動を迅速に行なう仕組みです(上記平成8年の最高裁判決)。したがって、誤振込みの場合は、相手方に預金債権を認めたうえで、組戻しを行なうか不当利得返還請求という事後的な救済の制度を利用することになります。

 問題はこれを超えて、犯罪となるかですが、民法上有効にお金を引き出せる以上、これを詐欺などの犯罪だとするのは無理があるように思います。なぜなら、上のような理由で詐欺罪になるとするならば、たとえば振込人と受取人が直接電話で話し合いを行い、受取人が誤振込みされた金額を銀行に告げずに引き出し、振込人に直接現金で返還したような場合であっても、銀行との関係で詐欺罪になるからです(松宮孝明『刑法各論講義[第5版]』(2018)189頁以下)。

まず、民法上有効なものを刑法で犯罪にするのはおかしいと書かれていますが、逆に言えば刑法で犯罪とされているものを民法で有効にするほうがおかしいという反論が成り立ちますのでこれはあまり説得力がありません。
また、振込人と受取人が話し合ってお金を引き出しても銀行に対しての詐欺が成立してしまうという考えですが、振込人が引き出しを許可した場合であればもはや誤振込だという告知義務もなくなってしまうという論法も成り立ちます。

以上、引きこもりの弱小ブロガーがネット上に落ちている記事をコピペしまくってお送りました。

※追記
窃盗として逮捕されても返金されるかどうかはまた別ですが、この場合恐らく税金かかってくるのでは?
つまり、申告しないと脱税になるかもしれませんね。逃げ得になりそうでそうでもなさそう。

拾得物やその報労金は「一時所得」
一時所得とは、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得で、労務や役務の対価としての性質や資産の譲渡による対価としての性質を有しない一時の所得をいいます。

この所得には、次のようなものがあります。

(1) 懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除きます。)
(2) 競馬や競輪の払戻金(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除きます。)
(3) 生命保険の一時金(業務に関して受けるものを除きます。)や損害保険の満期返戻金等
(4) 法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除きます。)
(5) 遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等

要するに、働いて得たり、不動産などを売って得たりしたものではない、一時的な所得と考えればいいでしょう。

それと住所や氏名まで晒されてしまったそうです。色々と怖い世の中ですね。

担当者の方安心してください。シティバンクは530億円誤送金未回収です(笑)

手違いで送金した530億円、シティバンクの回収認めず 米裁判所判決
ニューヨーク(CNN Business) 米金融大手シティバンクが手違いで送金した巨額の現金の返済を求めていた裁判で、米連邦地裁はこのほど、未回収分の約5億ドル(約530億円)をシティバンクが回収することはできないとする判決を言い渡した。

この問題では、化粧品会社レブロンへの融資の幹事会社だったシティバンクが、債権者に約800万ドルの利息を支払うべきところを、誤ってほぼ100倍の金額を送金してしまった。この中にはヘッジファンドに送金した1億7500万ドルも含まれていた。シティバンクがレブロンの債権者に誤って送金した額は、合計で9億ドルに上った。

シティバンクは昨年8月、この資金の返還を求めて提訴したが、まだ5億ドルが投資顧問会社10社から回収できていなかった。

法律では通常、誤って自分の口座に送金された現金を使った者が罰せられる。しかしニューヨーク州の法律には、もし受益者が現金を受け取って、それが手違いで送金されたものだと知らなかった場合、その現金を保持できるという例外規定があった。

債権者側は、シティバンクから融資の繰り上げ返済を受けたと思ったと主張した。手違いで送金された額は、シティバンクが債権各社に対して負っていた債務の額と、「1セント単位まで」一致していた。ただし返済期日はまだ相当先だった。

判決では、送金が意図して行われたものだったと債権者が信じたことは道理にかなっていると判断した。シティバンク自らも、手違いに気付くまでにはほぼ1日かかっていた。

この記事見て、やっぱり誤送金、誤振込は返さなくてもいいんだと思う人多数かもしれませんが、まず返さなくてもいい場合とは「手違いで送金されたものだと知らなかった場合」という要件があり、この事案はそれに該当するという点。
そして、なぜそんなに多額の(利息の100倍ですよ(笑))入金間違いに気付かないのかと言うと、そもそも入金先は債権者であり、その金額が債務額と一致していたからなんですね。
要するに借金を全額耳を揃えて返してきたっぽい、と判断して弁済に充当してしまったということのようです。
つまり、この場合は誤送金先は返さなくてもいいかもしれないが、得したわけでもない。利息がこれからとれないと考えるとむしろ損していると考える事もできます。
だからでしょうか、中には返金に応じたところもあるようです(複数の債権者に誤送金していたようです)。
従って、この事案を参考にして返さなくてもいいと早合点してしまうと手痛いしっぺ返しを食らうかもしれません。

続報によりますと、今回すべてネットカジノで費消してしまって持っていないという抗弁ですが、持っていないから返さなくてもいいわけではないはずですよね。

不当利得と現存利益
悪意により不当利得を受け取ったケース
悪意とは、ある事実について知っていることを意味します。つまり、不当利得であることを知った上で受け取ったケースです。

この場合の返還義務は、民法第704条に記載されています。悪意で利得を受け取った者に関しては、「その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償責任を負う。」と規定されています。

つまり、不当利得のすべてを返還するだけでなく、利息や賠償責任の支払いも発生するわけです。

博打で費消してしまった場合は現存利益はないですが、この場合返還しなくていいのは善意の場合です。
この方、自分の口座に仮に4630万円が振り込まれるなんらかの理由があれば誤送金だと気付かなかったという抗弁も成り立ちますが、それはなさそうです。
法律や今までの事例を研究して今回の行動を起こしているようですが、住所や氏名まで公開されてしまい、これからの人生これがネックとなるかもしれません。
刑務所に入っても数年で出てこれるし、みたいな意見もありますが、やはりまっとうに生きるのに越したことはないと思いますがどうでしょう。

と、引きこもりの弱小ブロガーが申しております。

※追記

4630万円をネットカジノに使ったというのが嘘だった場合詐欺罪に問われるのか?

各ニュース番組やワイドショーでもこの話題が取り上げられていますが、あまり法的な観点からは分析されませんね。
ふと、思ったのが不法利得で返還請求されて、それを使ってしまったというのが仮に嘘だったらこれはこれで罪に問われてしまうのではないかという事です。
教科書事例的に取り上げられるのが釣銭詐欺です。
①お釣りが多いのを受け取る前から気づいていて、そのまま受け取って帰ったら1項詐欺。
②知らずに受け取って家に帰って気づいてそのまま領得してしまったら占有離脱物横領罪。
そして、ここからが本題、①の時、例えば店員さんに呼び止められて、「お釣り多くなかったですか?」と聞かれて、とぼけてその場をなんとかやり過ごしてしまった場合、2項詐欺にあたるのではないかというお話です。この場合受け取る前から釣銭が多いと気付いていた場合と、受け取った後に気付いた場合で違いがあるのかどうか。
実際判例があるのかないのか分かりませんし、今回の場合は被害者が提訴している最中なのでまだ返金を断念したわけではなくいずれにしろ現時点では2項詐欺にはならないと思われますし、裁判して負けた場合でも2項詐欺になるのかどうかというかなり面白い、否、興味深い事案で今後法律系の教科書事例にのりそうですね。

※追記
結局逮捕されちゃいましたね。

「4630万円」誤給付、無職の24歳男を逮捕…電子計算機使用詐欺容疑
山口県阿武町が新型コロナウイルス対策関連の給付金4630万円を誤って振り込んだ問題で、給付金の一部を自分名義の口座から決済代行業者の口座に振り替えたとして、同県警は18日、阿武町福田下、無職田口翔容疑者(24)を電子計算機使用詐欺容疑で逮捕した。「ネットカジノで使用するため、別の口座に移して使った」と容疑を認めているという。

ATMは使わずネットで出金したということみたいですね。弁護士がついてたみたいですけど何もアドバイスはなかったのでしょうか。というか弁護士でも捕まらないとか言う人もいましたが、あれは一種の学説ですからね(笑)
そもそもなぜ今まで逮捕しなかったのか逆に不思議ですが。




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