軽微な交通違反は逮捕されない?~反則金未納で逮捕されているわけではない

      2020/10/26

反則金未納という理由での逮捕はあり得ないが

今回、交通反則金を払わなかったことで色々と勉強になりましたので自分なりに少しまとめておきたいと思います。
一時停止違反で反則金を払わなかった場合の流れについては過去記事を参照頂くものとして、交通違反(青キップ)で逮捕されることがあるのか疑問に思い調べました。よく反則金未納で逮捕ってニュースになったりしますが、あれは反則金を払わなくて逮捕されているのではありません。反則金の支払いは任意ですから反則金を納付してないという理由で逮捕状の請求はできません。では、なぜ逮捕されるのか? 事実上反則金を払ってない人に対して逮捕状が執行されているように見えますのでそのあたりかなり誤解があるようです。そもそも逮捕とはどういう時に出来て、或いはしないのかとかそういったことから備忘録として記載しておきます。

青キップ違反は逮捕されないという誤解

まず、気をつけなければいけないのは刑事訴訟法217条の30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第213条から前条までの規定を適用する。を根拠に、青キップなどの軽微な交通違反は氏名が明らかでないか逃亡のおそれがない限り逮捕できないのだから、運転免許証も提示して住所氏名なども分かっている場合は逮捕するのは違法だという主張です。
同条によれば30万円以下の罰金、拘留又は科料にあたる罪となっていますしカッコ書きで(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)となっています。交通違反は道路交通法で規定されていますから結局のところ2万円以下にあたる罪が対象になり、更にこれは法定刑が2万円以下となるものと思われます。

一時停止違反は懲役刑もありうる罪

そこで、私のような一時停止違反を道路交通法で参照してみますと
(指定場所における一時停止) 第四十三条に規定されており、罰則は第百十九条第一項第二号、同条第二項に規定されています。
第百十九条には次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する、と定められていますので法定刑はなんと懲役もありうる罪になります。

軽微な違反とはいえ、懲役刑もありますから刑事訴訟法に規定されている対象の軽微事件にはあたらないことになります。

そこで、原点に立ち戻って現行犯逮捕できる場合とはいかなる場合なのか?その要件をみてみましょう。

現行犯で逮捕される要件とは

現行犯については刑事訴訟法212条に規定されています。
1.現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。
また、213条により現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができます。

ただ、逮捕の必要性(逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれ)が逮捕の要件だとする見解が有力であるとされており、(大阪高判昭60-12-18判時1201-93)逃亡のおそれや罪証隠滅のおそれがあることが必要で、実務もそのように動いているようです。(参考・実例中心捜査法概説)
軽微な交通違反では証拠を隠滅するおそれというのはほぼないと思われますが、免許証を提示しないとか、住所氏名を黙秘するなどは逃亡の恐れを推認させるものですから現場の警察官に逮捕のきっかけを与えやすいものと思われますので注意を要するでしょう。

例え、違法な逮捕であると判例で出ていたとしても、現場の警察官がその判例を知っていない場合もありえますし、まったく同様な事例ではない場合もありえます。
また、不当な逮捕かもしれないと思っても実際に裁判にまで訴えることがどれくらいの人ができるでしょうか?そういった点も見越して警察官は逮捕する場合もありえます。そもそも、不当な逮捕ってはっきり言えるかは微妙です。
軽微な交通違反での逮捕はしないように通達がでていても実際に交通違反で逮捕される事例はあるようですし。

免許証を提示しなかっただけで逮捕するのは違法かもしれませんが、その他の言動から逃亡のおそれがあると判断される場合だってありえますしね。
現実に逮捕の必要性は不要だとする判例もあるくらいですから、警察官が逮捕しようと思えば逮捕できると考えたほうが無難でしょう。

例えば、黙秘権なども行使していると、罪を認めていないと判断され、罪を認めていないから逃亡のおそれがあると判断されて勾留が継続されたり、保釈されなかったりと、黙秘権を行使すると事実上不利益を被ったりするのが現状なようですからホントに注意が必要ですよね。

逮捕されてしまうと、最大で72時間勾留されるおそれがありますし、その後勾留が継続される可能性もあります。
私みたいな人間ですと3日くらい監禁されていてもほぼ支障なしですが笑、サラリーマンの方などは死活問題でしょう。

こういった土壌からしぶしぶと青キップにサインしてしまうことになるわけですが・・・

ただ、軽微な交通違反での逮捕はしないようになっているのでよっぽどの事がない限り現行犯で逮捕ということはないと思います。

反則金を払わなくて逮捕されるという意味

問題は反則金を払わなかった場合の逮捕ですね。この場合は逮捕状での通常逮捕になりますね。
刑事訴訟法199条に定められています。
ご存知かもしれませんが裁判所の令状発付率は非常に高く自動販売機と言われるほどだそうです。
従って捜査機関が必要だと判断するとほぼ逮捕状はでるとみていいわけです。
条文には「明らかに逮捕の必要がないと認めるときはこの限りでない」と規定されていますが、逮捕状による逮捕の要件にも逮捕の必要性が要求されるのには争いがないようです。

では、交通反則金を払わないという事がこの逮捕の要件の逮捕の必要性(逃亡又は罪証隠滅のおそれ)に該当するのか?というとこれ自体が逮捕状発付の要件に該当しているわけではないのです。
そもそも交通反則通告制度とは反則金を納めると公訴が提起されない制度であって、反則金を納めずに裁判を受ける事も出来る制度ですから、反則金を納めるか納めないかは任意であって義務や強制ではありません。逮捕の根拠は反則金を納付しないからではないのです。あくまで道路交通法などに違反したことが根拠です。交通反則通告制度
テレビなどで反則金を払わない奴は許さないとして逮捕されている事例がよく報道されますが、あれは反則金を払わないから逮捕されているわけではありません。勿論払わないとこうなるという見せしめの意味があるかもしれませんが、現に私は交通反則金を払ってはいませんが逮捕はされていません。ではなぜ逮捕されるのかと言えば交通反則金を払ってない人の多くが警察や検察の呼び出しに応じない、単にバックレているだけの人です。

出頭要請を無視していると

従って、反則金未納で逮捕されている人の多くは警察や検察から何度も出頭要請がきているにもかかわらず出頭していないことが、逃亡のおそれがあるとみなされている(そうみなされても文句は言えない、逮捕の法的な根拠の一つになる)ということになるでしょう。
また、199条①項ただし書きには軽微事件に関する217条と似たような規定があります。「ただし、30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まった住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。」
前述の如く、青キップ違反については軽微事件にはあたらないので現実問題として199条①項但し書きの直接適用はないことになりますが、軽微事件でも正当な理由のない不出頭は逮捕されますから、反則金未納で警察からの呼び出しなどを再三再四無視し続けたりすれば逮捕の口実を与えることになるのは理解できますね。

逮捕されないためにやるべき事

従って捜査機関に逮捕の口実を与えないためには、出頭の要請がきたら出来るだけ応じるか、出頭できない理由を告げておくとか、日時の変更も比較的容易にできますから変更して貰うとかしたほうがいいでしょう。
実況見分とか、警察の事情聴取などにいちいち応じるのはメンドクサイですし、これを1度や2度スルーしたからと言って即逮捕はないでしょう。
軽微事件での不出頭での逮捕は概ね3回以上の不出頭が実務では目安となっているようです。従って、交通裁判所や、検察庁からの呼び出しには必ず出頭しておけば不出頭での逮捕は回避できるのではないでしょうか?

交通裁判所にはとりあえず出頭しておく

交通裁判所で一体どんなことをやるのかというと、過去記事を見てもらえば分かりますが略式手続きです。この略式手続きも拒否することができます。その場で反則金を納付する必要はないのですから払う気がなくても出頭だけして調書作成に応じておきましょう。

そして、反則金を払うつもりがなければ、きちんと正式裁判で争いたい旨を主張しておきましょう。こうすることによって、自分は逃げも隠れもするつもりはないという事のアピールにもなりますから少なくとも逃亡のおそれは少ないと判断されるのではないでしょうか。

正々堂々と法的な手続きにのっとって自分の主張をしていくことが大事で、お金がないから払いたくない、呼び出しなんかほとぼりが冷めるまで無視しておけばいい、どうせ青キップ違反での反則金未納は不起訴だからと安易なやり方をするのは良くないでしょうね。

こうしてみると、交通違反をして反則金を払わないだけで無茶苦茶メンドクサイ事が分かります笑

交通違反と現行犯逮捕




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