ヤクザより質の悪いインドネシアのプレマン達~アクトオブキリングを無料で見る

   

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この映画、インドネシアで1960年代にあった共産党員の大量虐殺についての話ですが、何が凄いって実際に大量虐殺を行った人間が主人公となって自分たちの行ってきた拷問や殺害方法を再現させたりしている点です。国家や軍がやっていたのではなく、民間人(主にプレマンとかいうヤクザ者)が民間人を共産党員あるいは共産党に関係する人、いやもうなんか怪しいから殺す、みたいな感じでやっていたというのが怖い話です。
しかも、これら虐殺を行ってきた人間が地域の有力者になっていたり、お金持ちになっていたりしているのですが悪びれずに当時の事を嬉々として語っている点です。更に胸糞が悪くなるのが現在も違法なことしてお金を稼ぎまくっている点であり、それをさも当然かの如く顔を晒して語っている点です。
また、恐ろしいのはインドネシアの社会がそれを半ば黙認、許容している点です。いや、むしろ当時の事は共産党撲滅大作戦みたいな感じでこのプレマンと呼ばれるヤクザものたちをなかば英雄視しているのであります。

インドネシアのイメージが・・・

100万人ともいわれる虐殺については他にも触れられているので詳しくは触れませんが、国家が戦後の混乱期にヤクザをうまく使っていたとかまるでどっかの国だなと思ってしまいました。
この映画を見るとヤクザとかマフィアとかよりもある意味恐ろしくもあります。パンチャシラ青年団とかいう民兵組織があるのですが(そもそも民兵とかなんだよって話ですが)この組織虐殺に関与していたのみならずプレマン達も所属しているいわば公然のヤクザ集団なのであります。パンチャシラ青年団はどんな違法なことやっているんですか?みたいな質問に賭博と平然と答え、スーパーマーケットは用心棒だから違法じゃないという・・・

私の小さいころ、ヤクザが看板出して事務所を構えている国なんて海外じゃ考えられないなどという話を聞いてもイマイチピンとこなかったわけですが、今なら言えます。おかしいっすね(笑)まるで一昔前の日本のような感じさえします。

プレマンの一人が選挙に立候補する場面があります。議員になったらみんなから金がとれる。建物が10センチ低ければ家を壊すと脅せばいい。1軒1万ドル10軒で10万ドルだぜ、ヒーハー!みたいに嘯きます。
選挙運動していても住民が「ボーナスは?選挙の後なの?ここどこだと思ってんのよ。」などと言っていたりしてある意味同じ穴の狢か・・・

テレビ出演でのやり取りが興味深かったので一問一答をのせておきます。
主人公含めてプレマン数人が出演。スタジオにいる観客はパンチャシラ青年団。
殺し方の説明をするシーン。みんなドン引きなのかと思いきや、女性キャスターがにこやかな表情で「つまり共産主義者を撲滅するため苦しみの少ない方法を選び過剰な暴力は避けました」一同拍手喝采。

それを見ているスタジオの調整室。「彼は何人殺した?」「ざっと1000人くらい」「よく眠れるわね呪われないの?」「大勢おかしくなった」「そうよね」「違う、金持ちになった」

女性キャスターが言います「若者にとってこの映画(アクトオブキリング)はどんな意味があるでしょう?」
プレマン「若者は祖国の歴史を覚えておくべきだ。神は反共産主義者に違いない。」
女性キャスター「神は反共ですよ(笑)」
プレマン「言っておくが和解などない。歴史の必然だから和解などない。」
女性キャスター「被害者の子はなぜ仕返しをしないのでしょう?」
主人公「仕返ししたくないわけじゃない。できないんだ。したら皆殺しだ。」
一同拍手喝采。

なぜ虐殺が起こったか?についてはインドネシア大虐殺はなぜ起こったのか 倉沢愛子 / インドネシア史に詳しく書かれていました。
間接的にではありますが強制されていたとみることができるかもしれませんが、実行者であるプレマンたちはある意味それを口実に殺しを楽しんでいた節さえありますね。
プレマンの一人が彼女の親父が華僑なんだけど、通りの向こうから歩いてきたから刺してやった(笑)みたいに言ってたりするんでもうやりたい放題だったと思われます。

とにかくここに出てくるプレマンたちは虐殺云々抜きにして道徳心とか倫理観とかが欠落しているサイコパスにしか見えません。

なぜ自分たちの残虐な行為を暴露するような映画にわざわざ出演するのか疑問に思っていましたが、その謎が解けました。
この映画の撮影現場に大臣が訪問するということで、民兵役は拍手喝采です。世界中が見るんだぞと大喜びです。
「殺し屋が勢ぞろいだ(笑)」と副大臣とハグする主人公。

つまりこういう事かも知れません。このプレマンたちは歴史的偉業を成し遂げた英雄であり、当人たちもそう信じ切っている様子。また、インドネシア社会もなんだかおかしくね?とは思いつつも当事者がまだ現役でかつ権力に近く、かつ実力をもった集団であるから声をあげようにもあげる事ができない。

どこの社会も程度の差はあれ似たり寄ったりかもしれませんが。

武勇伝を語るかの如くこんなことを言うシーンも捉えられています。
「美人なら全員犯すね。当時は俺たちが法律だった。やりまくる。相手が14歳だったりした日にゃ・・・たまんねえ。お前には地獄でも俺には天国だ。」

久しぶりに胸糞の悪くなる映画を見てしまいました。

主人公は映画終盤で殺害現場で嘔吐します。この人物だけが自分のやったことへの罪悪感、後悔などが見て取れるのが唯一の救いかもしれません(何の救いにもなっていないという話もありますが)。

プレマンたちに当時の拷問や殺害シーンを再現させるにあたりプレマン本人が殺される役になったりするところや、時折女性たちが踊っているようなイメージフィルム的なものが挿入されるのですが、処刑して天国に行かせてくれてありがとうなどとプレマンに対して言わせたりしているのは何だか監督さんのプレマン達に対する地味な抵抗のような気がしないでもないです。




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